専門教科(英語)に対する教育観
私の専門教科は英語である。現在、千葉県の県立高等学校で講師をしている。現場での実践と指導経験を踏まえ、英語に対する教育観を述べる。
我が国は、日本語の層が厚く充実しており、かつ翻訳大国であるので、研究分野によって程度の違いはあるが、大学院の修士過程まで、ほぼ日本語のみで研究することができるほど日本語の利便性、役割が大きい環境にある。したがって、このような環境の中では、外国語でコミュニケーションをする必要性が限られてきたので、英語の授業は訳読に重点を置く指導ですまされてきた。
しかしながら、現在の状況は、旧来の英語教育では十分に間に合うとは言えない。「学習指導要領改定の趣旨」には、社会の変容が次のように示されている。
21世紀は、新しい知識、情報・技術が政治・経済・文化をはじめ社会のあらゆる領域での活動の基盤として飛躍的に重要性を増す、いわゆる「知識基盤社会」の時代と言われている。このような知識基盤社会化やグローバル化は、アイディアなど知識そのものや人材をめぐる国際競争を加速させる一方で、異なる文化や文明との共存や国際協力の必要性を増大させている。
社会の変化、技術革新が速く、様々分野での国際競争、協力が密接な現代社会において、日本人が、他国の人々と渡り合うには、英語を媒介として、即時に最新の知識を得て、はっきりと意見を述べる力が重要となってくる。実際に、これまで日本人は、たびたび英語でのコミュニケーションを使用しなかったために損したことがあった。鈴木梅太郎はビタミンB1を発見するというノーベル賞級の業績を挙げたにもかかわらず、研究成果を英語の論文で発表しなかったために、受賞は叶わなかったと言われる。領土問題などの外交交渉においては、我が国の立場や考えを英語で主張することを怠ったため、国際社会の理解を得にくかったという分析がある。
「高等学校学習指導要領」に示される外国語の目標は、次の3つの柱から成り立っている。
① 外国語を通じて、言語や文化に対する理解を深めること。
② 外国語を通じて、積極的にコミュニケーションを図ろうとする態度の育成を図ること。
③ 外国語を通じて、情報や考えなどを的確に理解したり適切に伝えたりする能力を養うこと。
私は、生徒に、まさしくこのような能力を獲得させたいと願って、教育してきた。3つの柱はいずれも重要であるが、中でも、「外国語(英語)を通じて、情報や考えなどを的確に理解したり適切に伝えたりする能力を養うこと」に述べる。
英語の技能は、「読むこと」、「書くこと」、「話すこと」、「聞くこと」の4つに分類することができる。この4技能はどれも大切であり、総合的にバランス良く育成することが必要である。4技能を全体的に伸ばしていくのが、理想的であるが、授業を英語で行っている教師が全体の2割以下である現状では、他の教師と連携を取れていないと効果的に4技能を育成することが困難である。また、教師間の連携不足は、生徒の学習に混乱を招きかねない。
そこで、私は4技能の優先順位として、「聞くこと」と「読むこと」とを統合した指導を行ってきた。「聞くこと」の指導については、発音の学習を重視し、繰り返し指導を行ってきた。英語を得意とする者にとっても、「聞くこと」は特に難度が高い。この大きな原因は、日本語で使う音と英語で使う音とがかけ離れていることである。これを解消するには、英語の正しい音を知る必要がある。発音、イントネーション、アクセント、音声の変化を英語学習の初期に習得すれば、聞く力の基礎ができる。また、この能力は相乗効果として、「話すこと」の育成につながる。相手に理解されやすい英会話ができるからである。「読むこと」の指導については、文の構造の理解と語句の暗記とが確実に定着するように指導してきた。その上で、リピーティング、オーバーラッピング、音読等と行い、読む技能の育成を行った。
こうして育成した「聞く技能」と「読む技能」をつなぐことで、ネイティブスピーカーが読み上げる音声を、聞くだけで100%分かるように指導をしてきた。長文を目で見て読めることや問題が解けること、和訳ができることを最終目標にするのは、学習効果としては不十分である。ネイティブスピーカーが読み上げる音声を聞くだけで、完全に理解できるようにすることが大切である。この状態になると日本語を介在させずに一定の速度で英語を理解できるようになる。
さらに「話す技能」を伸ばすためには、疑問詞を用いた表現ができるようにした。質疑応答は、コミュニケーションの大きな割合を占めるからだ。
今後、グローバル化の中で英語を使用する重要性はますます増大する。これに対応できる確かな英語力を育成し、情報や考えを的確に理解したり、適切に伝えたりする能力を持った生徒の育成に努めていく。
2015年11月
댓글