さて ,いまの自然環境は,実は人工環境ともいえるくらい人の手がは
いっている。美しい森も川も原始のままではない。青田に小川が流れシ
ラサギの遊ぶ風景も人工環境といえよう。しかし、人の手が加えられて
も,それが自然の循環をさまたげないほどの状態になっている場合は,
自然環境といっても差支えないであろう。昔はだいたいそうであった。
しかし現代ではこの様相は一変して,人間のすることは自然に吸収され
ず,自然と対立する人工環境をつくっている。
いまの社会では人工環境は,できるだけその中に人工的の循環をつく
り,自然環境を害しないようにしなくてはならない。ますます多くなる
廃棄物は,自然の中に捨てるのでなく ,再生産することを考え,人工環
境の中で始末すべきである。
すなわち工場から出る廃棄物も,生活から出るゴミも不用品も,これ
を集め,えり分け,それを新しい資源として何か役立つものにすること
によって,物質を人工循環系の中におき,自然の中にむやみに捨てるこ
とをやめることである。
そうした努力をしなければ,今後も進歩しつづけるであろう科学技術
は,人間の幸福に役立たず,むしろ不幸を招くものとなろう。
人にはそれぞれ欲望がある。それを満すことは幸福といえよう 。ただ
その幸福がどんなものかということである。人びとが,新しい文明を築
き,たえず前進するとき,つねに自然との調和をはかり, 美しい自然を
保全し,その中に真の幸福を求めようとするためには,近ごろのあまり
に目前の欲望を追う傾向は,反省され転換されねばならないであろう。 ~
美しさの中にこそ人生の本当の幸福がある。そしてそれを求めつづけ
るのが,生きがいというものではなかろうか。
1971月12月 『水利科学』82号
Comments